自治体や独立行政法人、共済組合、公益法人などの広報・情報担当の方が、ホームページのリニューアルで最初に悩むのが仕様書の作成です。アクセシビリティ、CMS、セキュリティ、移行、研修と書くべきことが多く、前回の仕様書を手直しするだけでは、今の基準や運用に合わない項目が残りがちです。
Contents
公共団体のホームページに求められること JIS X 8341-3 と「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の要点 JIS X 8341-3:2016 とは 運用ガイドライン(2024年版)が求める取組 不適切とされている取組 仕様書に書く項目 アクセシビリティの項目で決めておくこと 入札・プロポーザルの一般的な流れ 公開後の運用で守ること 当社の制作例:共済組合と独立行政法人のサイト よくあるご質問 国や自治体以外の団体も、運用ガイドラインに従う必要がありますか? 「AAに準拠」と書けるのはどんなときですか? 読み上げや文字拡大のツールを入れれば、アクセシビリティに対応したことになりますか? PDFの資料が多い場合はどうすればよいですか? 公共団体のサイトの制作期間はどのくらいですか? まとめ
公共団体のホームページの仕様書は、「JIS X 8341-3:2016 の適合レベルAAに準拠する(試験を実施し、結果を公開する)」ことを軸に、対象範囲・試験の方法・更新の体制・セキュリティ・移行・権利を、受注者が同じ前提で見積もり、提案できる粒度で書くことが基本です。
この記事では、公共団体のサイトに求められること、JIS X 8341-3 と総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の要点、仕様書に書く項目、入札・プロポーザルの一般的な流れ、公開後の運用を、発注する団体の立場で解説します。法令や規程の扱いは団体の種類によって異なるため、個別の判断は所管部署や法務・契約の担当にご確認ください。
公共団体のホームページに求められること
公共団体のホームページには、誰でも使えること(アクセシビリティ)、正確な情報を利用しやすい形で提供すること、止まらず改ざんされない運用(セキュリティ)が、民間企業のサイト以上に求められます。
求められること 主な根拠・参考 サイトでの具体策
アクセシビリティ 障害者差別解消法、JIS X 8341-3:2016、総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン」 適合レベルAAへの準拠、ウェブアクセシビリティ方針の公開、年1回の試験と結果の公開
情報の公開・提供 例:独立行政法人等情報公開法 第22条(組織・業務・財務の基礎的な情報などを、国民が利用しやすい方法で提供する)、各団体の条例・規程 組織・事業・財務・調達の情報を探しやすく整理し、更新日を明記する
正確さと更新のしやすさ 各団体の文書管理・広報の規程 担当部署が共通の型で更新し、承認を経て公開できるCMSの権限設計
セキュリティ 例:総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」、各団体の情報セキュリティポリシー 常時SSL、監視、バックアップ、脆弱性への対応、管理画面へのアクセスの制限
障害者差別解消法では、ウェブアクセシビリティは合理的配慮を的確に行うための「環境の整備」に位置づけられ、行政機関等と事業者の努力義務とされています。一方、障害のある人からホームページの改善を求められたときの「合理的配慮の提供」は行政機関等には義務で、2024年4月からは事業者にも義務になりました(みんなの公共サイト運用ガイドライン2024年版 2.2.2、内閣府のリーフレット )。
地方公共団体の情報セキュリティについては総務省がガイドラインを示しており、2025年3月にも改定版が公表されています(総務省の報道資料 )。仕様書のセキュリティ要件は、団体が定めている情報セキュリティポリシーに合わせて書きます。
JIS X 8341-3 と「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の要点
公的機関のホームページは JIS X 8341-3:2016 の適合レベルAAに準拠することが求められ、そのための取組と手順を示したのが総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」です。
JIS X 8341-3:2016 とは
JIS X 8341-3:2016 は、高齢者や障害のある人を含む誰もがウェブコンテンツを利用できるようにするための日本産業規格で、2016年3月22日に公示されました。国際規格 ISO/IEC 40500:2012(WCAG 2.0 と同じ内容)と一致させることを主な目的に改正されたものです(国立国会図書館 カレントアウェアネス・ポータル )。達成基準には適合レベルA・AA・AAAがあり、公的機関はAAへの準拠が目標になります。
その後、2025年10月には WCAG 2.2 が ISO/IEC 40500:2025 として承認されたことが発表されました(W3C )。運用ガイドライン2024年版も近い将来の JIS の改正を見据えて、新しく構築するサイトでは WCAG 2.2 の達成基準にもとづく対応をできる限り進めるよう求めています。仕様書を書く時点で、JIS の最新の版と改正の状況を確認してください。
運用ガイドライン(2024年版)が求める取組
総務省のみんなの公共サイト運用ガイドライン は、国・地方公共団体・独立行政法人などの公的機関がウェブアクセシビリティを確保・維持・向上させる取組を支援するためのもので、最新版は2024年版です。公式ホームページ(スマートフォン向けを含む)を最優先に、次の取組を求めています。
ホームページの状態 求められる取組
すでにAAに準拠している 取組を続け、適合レベル・対象範囲・内容を広げる。JIS の改正に向けた準備をできる限り進める
AAに準拠していない既存のサイト 速やかにウェブアクセシビリティ方針を策定・公開し、AAに準拠する(試験の実施と公開)
新しく構築するサイト 構築前に方針を策定し、構築時にAAに準拠する(試験の実施と公開)。WCAG 2.2 の達成基準への対応もできる限り進める
すべてのサイト 1年に1回「ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表」で取組を確認・評価し、年度末までに結果を公開する
2016年版では「遅くとも2017年度末までにAA準拠」という期限が示されていましたが、2024年版には具体的な年度の期限はなく、「速やかに」対応するよう求めています。ウェブアクセシビリティ方針には、対象範囲・目標とする適合レベル・期限を定めて公開します。
不適切とされている取組
音声読み上げや文字拡大などの支援ツールを導入しただけで「対応した」としている
試験の対象ページだけを改善して、AA準拠と公表している
試験を構築・保守の事業者だけに任せ、第三者に依頼していないため、客観性を担保できていない
年度末に試験を実施し、結果の分析や改善の期間を確保していない
数年前のウェブアクセシビリティ方針をそのまま公開している
いずれも運用ガイドライン2024年版で不適切な例として挙げられているもので、仕様書の段階で防げるものが多くあります。支援ツールについてガイドラインは、利用者の多くは自分の端末に支援機能を入れて使っており、提供する側に求められるのは個々のページを JIS の要件に沿って作ることだと説明しています。
Service
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仕様書に書く項目
仕様書は、複数の事業者が同じ前提で見積もり・提案できるように、現状の数字・対象範囲・求める水準・成果物を具体的に書きます。
公開されている自治体の調達仕様書(例:ある町のホームページリニューアル業務調達仕様書 )も参考にしながら、主な項目を表にまとめました。数値は例で、団体の規模や方針に合わせて決めます。
区分 仕様書に書く項目 書き方の例・注意
業務の概要 目的、対象サイト、公開予定日、履行期間 例:公開予定日と、テスト環境での確認期間を分けて書く
現状 ページ数、PDFの数、容量、関連サイト、利用状況 例:約2,500ページ(関連サイトを含む)。移行の工数の見積もりに必要
対象範囲 対象のサイトと対象外のサイト 例:例規集と議会のサイトは対象外
情報設計 階層、主要な情報までの到達、利用者別・出来事別の入口 例:主要な情報へ原則3クリック以内で到達できる
デザイン 統一したデザイン、緊急情報の表示、災害時のトップページ 例:緊急情報をトップページに表示・非表示できる
アクセシビリティ 目標の適合レベル、対象範囲と除外するもの、試験の方法と実施者、結果の公開、方針の策定支援 例:JIS X 8341-3:2016 AA準拠。第三者による検証を含めるか、その費用を見積もりに含めるかを明記する
CMS 権限と承認の流れ、テンプレート、アクセシビリティの入力チェック、操作の環境 例:画像の代替テキストを入力しないと公開できない。ブラウザだけで操作でき、庁舎外から緊急の更新ができる
サーバー・セキュリティ 設置場所、監視、常時SSL、バックアップ、脆弱性への対応、団体のポリシーへの準拠 例:24時間365日の監視、日次のバックアップを5世代保管
移行 移行するページ・PDF・画像、移行計画と報告、URLの扱い 例:URLが変わるページは旧URLから転送する
研修・マニュアル 対象者別のマニュアル、研修の回数と時間 例:作成者・承認者向けと、システム管理者向けに分ける
運用・保守 契約期間、問い合わせの受付時間、障害時の対応、計画停止の告知、CMSの更新 例:計画停止は利用者(住民)向けに3週間前に告知する
成果物 計画書、設計書、マニュアル、アクセシビリティの試験結果、議事録、画像データ 例:試験結果は、そのまま公開できる形式で納品する
権利・情報管理 著作権の帰属、再委託、守秘義務、個人情報の扱い 例:サイトの著作権は団体に帰属(CMSなどのパッケージは除く)
検収 検査の方法、不備があった場合の修正 例:完了報告の後に検査し、不備は修正して再納入する
アクセシビリティの項目で決めておくこと
目標とする適合レベル(AA)と、WCAG 2.2 で追加された達成基準にどこまで対応するか
試験の対象ページの選び方と、試験を行う者(構築事業者か第三者か)
PDF・動画・外部サービスなど対象から外すものと、その代わりの対応(HTMLでの掲載など)
公開後に職員が更新しても基準を保てる仕組み(CMSの入力チェック、表記ルール、研修)
試験結果とウェブアクセシビリティ方針を、誰がいつ公開するか
デジタル庁のウェブアクセシビリティ導入ガイドブック は、初めて取り組む職員や事業者に向けて考え方と進め方をまとめており、発注担当者が事業者とやり取りするための基礎知識として役立ちます。民間企業も含めた対応の考え方はウェブアクセシビリティの義務化と中小企業の対応 で解説しています。
入札・プロポーザルの一般的な流れ
ホームページの構築業務は、価格で受注者を決める入札のほか、企画提案の内容で受託候補者を選ぶプロポーザル方式で発注されることがあり、手続きは団体ごとの規程で決まります。
方式 選び方 向いている業務
一般競争入札 参加資格と仕様を満たす参加者の中から、価格で落札者を決める 仕様を細かく決められる業務
総合評価方式 価格と、技術・提案の評価を合わせて落札者を決める 価格だけでなく品質も評価したい業務
プロポーザル方式(公募型・指名型) 企画提案書とヒアリングなどで、業務に最も適した受託候補者を特定し、協議して契約する 事業者の専門性や創造性で内容が大きく変わる業務、仕様を具体的に定めにくい業務
例として、徳島市のプロポーザル方式実施ガイドライン(2025年4月1日改正)では、次のような流れが定められています(徳島市プロポーザル方式実施ガイドライン )。
プロポーザル方式の採用を決め、実施要領(目的・業務の概要・参加資格・提出書類・審査方法)を作る
審査会を設け、審査方法と評価基準(項目ごとの配点と最低基準点)を決める
公告する(公募型の場合、公募期間は原則14日以上)
質問を受け付け、回答をホームページで公表する
参加表明を受け、参加資格を確認して通知する
企画提案書の提出を受け、審査とヒアリングを行う
受託候補者を特定し、すべての提案者に結果を通知して公表する
候補者と協議して仕様書を作り、契約する
発注する側は、予算を要求する前に複数の事業者から参考見積もりを取り、仕様書の案で前提をそろえておくと、予算と実際の提案の差を小さくできます。評価基準には、アクセシビリティの試験の進め方や公開後の運用支援の体制など、仕様書で重視した項目を入れておきます。契約書で確認する著作権や納品物の考え方はホームページ制作の契約書で確認すること も参考にしてください。
公開後の運用で守ること
公開後は、年1回の試験と取組の確認・公開、職員研修、更新時のルールを続けることで、公開したときの水準を保ちます。
時期 やること
ページを作成・更新するたび 見出しの階層、画像の代替テキスト、リンクの文言、表の作り方を確かめる。紙の資料をスキャンしたPDFではなく、できるだけHTMLで掲載する
年に1回 JIS X 8341-3:2016 にもとづく試験を行い、結果を公開する。改善の期間がとれる時期に行う
年度末まで 「ウェブアクセシビリティ取組確認・評価表」で取組を確認・評価し、結果を公開する
異動・新年度 ページを更新する職員に研修を行い、表記ルールとマニュアルを周知する
方針の期限が来たとき ウェブアクセシビリティ方針の対象範囲・目標・期限を見直して公開する
総務省は、JIS X 8341-3:2016 にもとづく検証を支援する評価ツール「miChecker」を無償で公開しています(総務省:miChecker )。明らかな問題箇所の特定や、人の判断が必要な箇所の提示に使えますが、すべての検証を自動で行えるものではないため、人による確認と組み合わせます。
部署ごとに更新する場合は、ページの型(見出し・項目の順番・ボタンの文言)を固定し、部署は内容だけを入力する仕組みにすると、表記やデザインのばらつきを防げます。日付の形式や用語の統一などの表記ルールを短いガイドにして、管理画面に表示する方法も有効です。
当社の制作例:共済組合と独立行政法人のサイト
当社では、公共団体・官公庁関連のサイトとして、自治体職員の共済組合と、知的財産分野の独立行政法人のサイトを制作しました(掲載許諾の方針により社名・URL・画面は非公開)。
比べる点 職員共済組合のサイト 独立行政法人(知的財産分野)のサイト
主な閲覧者 組合員(職員)とその家族、各所属の共済事務担当者、退職者 中小企業・スタートアップの知財担当者、研究者・学生、支援機関、報道関係者
情報設計 制度別のナビゲーションに加え、結婚・出産・病気やけが・住宅・退職などの出来事から制度へ進む「こんなときには」の入口 事業別のナビゲーションに加え、事業者・研究者・学生・支援機関・報道関係の「ご利用者別」の入口
よく使われるページ 申請書類(制度別と五十音順の一覧、記入例つき) 研修・セミナー(日付順。対象者・形式・申し込み方法を明記)、調査・刊行物
問い合わせ 各制度ページの末尾に担当部署名・電話番号・受付時間 各サービスページの末尾に担当部署・電話・受付時間・フォームへのリンク。用件から窓口を選べる問い合わせページ
アクセシビリティ 十分なコントラストと文字サイズの変更。公開前に見出し構造・代替テキスト・キーボード操作・コントラストを確認 文字サイズの変更と背景色の切り替え。公開前に見出し構造・代替テキスト・キーボード操作・コントラスト・PDFを確認
運用 制度ページを共通の型で作り、担当部署が更新。お知らせは投稿形式 各部署が担当ページを共通の型で更新できる権限設計。調達情報は公告と結果を分けて掲載
制作期間の目安 制度ページの数によるが3〜5か月 事業の数によるが4〜6か月
どちらも、印象的なビジュアルより「目的の情報にすぐ着けること」を優先し、主要な入口が最初の画面に収まる構成にしました。当社のWeb制作ガイドライン では、WCAG 2.1 に準拠し適合レベルAA以上を目指すこと、文字と背景のコントラスト比を4.5:1以上確保することなどを定めています。業種ごとの事例は制作実績 でご覧いただけます。
よくあるご質問
国や自治体以外の団体も、運用ガイドラインに従う必要がありますか?
運用ガイドラインは国や地方公共団体などの公的機関を対象にしたもので、総務省の講習会も国の機関・地方公共団体・独立行政法人・地方独立行政法人を対象としています。それ以外の団体の位置づけは団体の種類によって異なり、障害者差別解消法の「事業者」にあたる場合は、合理的配慮の提供が義務、環境の整備が努力義務です。所管官庁や関係する自治体の方針もあるため、所管部署に確認したうえで、運用ガイドラインを取組の参考にするのが現実的です。
「AAに準拠」と書けるのはどんなときですか?
運用ガイドラインでは、AAへの準拠を「試験の実施と公開」とあわせて示しています。対象範囲を決めて JIS X 8341-3:2016 にもとづく試験を行い、その結果を公開して初めて準拠と表記できると考えてください。表記の方法は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」(2021年4月版)を参照している公的機関もあります(例:東北厚生局のウェブアクセシビリティ方針 )。
読み上げや文字拡大のツールを入れれば、アクセシビリティに対応したことになりますか?
なりません。運用ガイドラインでは、支援ツールの提供は JIS X 8341-3:2016 に沿ってアクセシビリティを確保したうえでの付加的なサービスと位置づけられており、ツールを入れただけで対応したとする取組は不適切な例とされています。
PDFの資料が多い場合はどうすればよいですか?
紙の資料をスキャンしたPDFは読み上げソフトで読めないことがあるため、主要な情報はHTMLのページで掲載し、PDFは補足として置くのが基本です。PDFを試験の対象から外す場合は、その範囲と代わりの対応をウェブアクセシビリティ方針に書きます。PDFのファイル名に様式名と改定日を含めておくと、更新のときに差し替えやすくなります。
公共団体のサイトの制作期間はどのくらいですか?
当社の制作例では、制度ページの数や事業の数によって3〜6か月が目安です。既存コンテンツの移行、アクセシビリティの検証、各部署の確認の工程を含めて計画します。これに加えて、仕様書の作成から公告・審査・契約までの調達の期間を見込んでおく必要があります。
まとめ
公共団体のホームページの仕様書は、誰でも使えるサイトを公開後も同じ水準で運用し続けるための約束を、受注者と共有する文書です。要点は次のとおりです。
JIS X 8341-3:2016 の適合レベルAA準拠(試験の実施と公開)を軸にし、WCAG 2.2 への対応方針も決める
現状のページ数・対象範囲・除外するものを数字で書き、見積もりの前提をそろえる
試験は第三者による確認を含め、改善の期間がとれる時期に行う
CMSの権限・入力チェック・研修で、職員が更新しても基準を保てるようにする
公開後は年1回の試験と取組の確認・公開、方針の見直しを続ける
アクセシビリティや更新の体制を含めてサイトを作り直したい場合は、当社のコーポレートサイト制作 で、情報設計から公開後の運用まで同じチームが担当します。
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