連載:ブランディング×マーケティング論 ②
この連載は、「ブランディング×マーケティング論」で示した構造を、テーマごとに掘り下げるものです。第2回は、見込み客が会社を選ぶまでの4段階「想起・検索・比較・信頼」を使い、ブランディングが集客のどの段階でどう効いているかを分析します。
「ブランディングに投資しても、問い合わせが増える気がしない」。中小企業の経営者からよく聞く言葉です。この感覚は半分正しく、半分間違っています。正しいのは、認知を広げるためのブランディング(広告・露出・好感度)は、中小企業の予算では問い合わせにつながりにくいという点です。間違っているのは、ブランディングの効き目がそこにしかないと思っている点です。
見込み客が会社を選ぶまでには「想起 → 検索 → 比較 → 信頼」という4つの段階があります。ブランディングが中小企業の成果に最も効くのは、最初の「想起」ではなく、後半の「比較」と「信頼」です。この記事では、4段階それぞれで何が起きているのか、ブランディングとマーケティングがそれぞれ何をすべきか、何で測るのかを分解します。
結論:ブランドは「比較」と「信頼」で選ばれる理由をつくる
| 段階 | 見込み客の行動 | 通過を決める要因 | 主に効くのは | 測る指標 |
| 想起 | 社名を思い出す。紹介される。再訪する | 覚えられる名前・一言。接点ごとの一貫性 | ブランディング(一貫性) | 指名検索数、直接流入 |
| 検索 | 課題を言葉にして検索・AIに質問 | 該当ページの有無(接点)× 結果一覧で「自分向け」と分かるか(言葉) | 両方 | 表示回数、クリック率、AIでの引用 |
| 比較 | 3〜5社を並べて見る | 違いが言葉と証拠で示されているか。比較に必要な情報が揃っているか | ブランディング(差別化の言語化) | 滞在・回遊、問い合わせ時の決め手 |
| 信頼 | 連絡する直前の最終確認 | 料金・進め方の透明性、人の顔、言葉と見た目の一貫性、迷わない導線 | ブランディング+導線 | 問い合わせ率、問い合わせの質 |
4段階は漏斗(ファネル)のように見えますが、重要なのは、どの段階にも「伝える」仕事と「集める」仕事の両方があることです。ある段階で「集める」だけを強化しても、「伝える」が弱ければ通過率は上がりません。以下、段階ごとに見ていきます。
第1段階 想起:思い出されるか、紹介されるか
最初の段階は、見込み客があなたの会社の存在を頭に浮かべることです。きっかけは、過去の名刺交換、展示会、知人の紹介、以前見たサイト、SNSの投稿などさまざまです。ここで問われるのは「認知度」ではなく、思い出したときに何の会社として思い出されるかです。
中小企業にとって現実的な想起の経路は紹介と再訪です。紹介される会社には共通点があります。一言で説明できることです。「◯◯さんのところは、製造業の採用サイトが得意だよ」と紹介できる会社は紹介されますが、「WEB制作全般をやっている」会社は紹介のしようがありません。ブランディングの仕事は、この一言を決め、名刺・サイト・SNS・提案書で同じ一言を使い続けることです。
マーケティングの仕事は、紹介や再訪で来た人の受け皿です。社名で検索したとき確実に1位に表示されること、トップページを開いたときに紹介された内容と同じことが書かれていること。社名検索で他社や求人サイトが上に出ていたり、トップページが紹介の言葉と違う印象だったりすると、想起は問い合わせにつながりません。
測る指標は、Search Console で見られる指名検索数(会社名・サービス名での検索回数)と、GA4 の直接流入数です。この数字が月を追って増えているなら、想起が積み上がっています。
Service
WEBブランディングのご相談はフェニックスデザインへナレッジベースを運営するフェニックスデザインが、現状のサイト診断から制作・運用まで対応します。30分の無料相談を受け付けています。
第2段階 検索:課題の言葉で見つかり、「自分向け」と伝わるか
思い出せる会社がなければ、見込み客は課題を言葉にして検索します。「精密板金 短納期」「採用サイト 制作 費用」「訪問介護 ホームページ 事例」。最近はAIに質問する人も増えました。「少量多品種に対応できる板金加工会社を教えて」。
この段階は、従来「SEOの領域」とされてきました。確かに、課題の言葉に対応するページを用意し、検索エンジンとAIに内容を正しく伝える(構造化データ、一次情報の整備)のはマーケティングの仕事です。しかし、表示されただけでは通過できません。検索結果には10件、AIの回答には数社が並びます。その中から開かれるかどうかを決めるのは、タイトルと説明文が相手の言葉で書かれているかです。
「株式会社◯◯|板金加工」というタイトルと、「少量多品種・短納期の精密板金加工|1個から対応、見積もり翌日」というタイトルでは、同じ順位でもクリック率が大きく違います。後者は、相手が検索した言葉(少量多品種、短納期)と、相手が次に知りたいこと(1個から、翌日)を先回りして書いています。これは言葉の設計、つまりブランディングの仕事です。
測る指標は、Search Console の表示回数(接点の数)とクリック率(言葉が刺さったか)、そしてAI検索での引用の有無です。表示回数が多いのにクリック率が低いページは、「見つかっているが、自分向けと伝わっていない」状態です。SEOを足すのではなく、言葉を直す場面です。
第3段階 比較:違いが言葉と証拠で示されているか
見込み客は、検索やAIの回答から3〜5社を開き、並べて見ます。BtoBの発注担当者であれば、候補を社内で説明する必要もあります。この段階で問われるのは「他社ではなく、なぜこの会社なのか」です。
多くの中小企業のサイトは、ここで候補から外れます。理由は二つあります。一つは、比較に必要な情報が揃っていないこと。料金の目安、期間、対応範囲、実績、進め方。これらが「お問い合わせください」の一言で隠されていると、比較の土俵に乗れません。担当者は、情報が揃っている他社で比較表を作り、情報のない会社は表から落とします。情報を揃えるのはマーケティングの仕事です。
もう一つは、違いが形容詞でしか書かれていないことです。「高品質」「丁寧な対応」「豊富な実績」「お客様第一」。これらはどの会社のサイトにも書かれているため、比較の決め手になりません。違いを決め手に変えるには、形容詞を手順・条件・数字・証拠に置き換える必要があります。「丁寧な対応」ではなく「見積もり前に図面を見て、加工の難所を3点まで指摘する」。「豊富な実績」ではなく「製造業のコーポレートサイトを230件、うち上場企業のIR対応サイトが◯件」。この置き換えが、差別化の言語化であり、ブランディングの中心的な仕事です。
測る指標は、GA4 の滞在時間・回遊(料金や実績ページまで読まれているか)と、問い合わせ・商談時の定型質問「他にどこを見ましたか」「決め手は何でしたか」への回答です。決め手として挙がる言葉が、設計書に書いた「選ぶ理由」と一致していれば、比較の段階でブランドが機能しています。一致していなければ、伝えたいことが伝わっていません。
第4段階 信頼:連絡する直前の、最後の確認
2〜3社に絞った見込み客は、問い合わせを送る直前に最終確認をします。この会社に連絡して、面倒なことにならないか。断れなくなったりしないか。担当者はどんな人か。本当に書いてある通りの会社か。
この段階で見られているのは、透明性と一貫性です。料金と進め方が公開されているか(隠している会社は、連絡したら営業されると思われます)。担当者の顔と名前が出ているか。会社概要の住所・設立・登録番号が揃っているか。そして、ここまで読んできたトップページ・サービスページ・実績ページ・料金ページの言葉と見た目が、一貫しているか。最後の最後で「業界最安値!今すぐお電話を」のバナーが出てくると、それまでの信頼が崩れます。
マーケティング側の仕事は、迷わないフォームです。項目は必要最小限か、送信後に何が起きるかが書かれているか、自動返信は届くか、返答は速いか。ここは純粋に導線とUIの問題です。
測る指標は問い合わせ率(比較段階まで来た人のうち、連絡した人の割合)と、問い合わせの質(対象顧客として定義した相手からの問い合わせの割合、商談化率)です。問い合わせ率が低ければ透明性か導線に問題があり、質が低ければ前の段階の言葉が広すぎます。
4段階は一方通行ではない:比較と信頼を行き来する
4段階を漏斗のように描きましたが、実際の見込み客は直線的には進みません。比較の途中で新しい候補を検索し直し(比較→検索)、信頼の確認中に別の会社の実績を見に戻り(信頼→比較)、数日後に社名で再訪します(信頼→想起)。BtoBの発注では、この往復が数週間続くこともあります。
この往復が意味するのは、各段階のページが単独で完結していてはいけないということです。実績ページを見ている人は比較の段階にいますが、同時に「この会社の料金はどうか」(比較)、「担当者はどんな人か」(信頼)を知りたがっています。だから実績ページの末尾には、料金と制作の流れと問い合わせへの導線が必要です。料金ページを見ている人は、「この金額で何をしてくれるのか」(理解)に戻りたくなります。だから料金ページには、サービス内容と流れへの導線が必要です。
当社が各ページの末尾に、関連するサービス・実績・記事・料金・問い合わせへの導線を置いているのは、この往復を前提にしているからです。往復のたびに同じ言葉と同じ約束が現れれば、理解と信頼は接点ごとに積み上がります。往復のたびに違う印象を受ければ、積み上がりません。これが、4段階モデルと一貫性(ブランディング)が切り離せない理由です。
測るための設定:Search Console と GA4 で何を見るか
4段階の指標は、特別なツールなしに測れます。最低限の設定を挙げます。
- 想起:Search Console の「検索パフォーマンス」で、クエリに社名・サービス名を含むものをフィルタし、月ごとの表示回数・クリック数を記録する。GA4 の「トラフィック獲得」で Direct(直接流入)の推移を見る。
- 検索:Search Console でページ別・クエリ別の表示回数とクリック率を見る。表示回数が多くクリック率が低いページを月次で抽出する。
- 比較:GA4 で料金ページ・実績ページ・制作の流れページへの到達率(ランディング後にこれらを見た割合)と、平均エンゲージメント時間を見る。問い合わせフォームに「他に検討した会社」「決め手」の任意項目を置くか、初回の打ち合わせで必ず聞く。
- 信頼:GA4 でフォーム到達数と送信数(コンバージョン)を比べ、問い合わせ率を出す。問い合わせ内容を「対象顧客に該当するか」で分類し、質の割合を記録する。
これらを月次レポートの定型項目にしておくと、どの段階で落ちているかが毎月分かり、改善の優先順位が「感覚」ではなく「段階」で決まります。
4段階モデルの使い方:落ちている段階を特定する
このモデルの実務上の価値は、「どこで落ちているか」を特定できることです。サイトの成果が出ないとき、原因は4つのどこかにあり、対処法は段階ごとに違います。
| 症状 | 落ちている段階 | 対処 |
| 指名検索がほとんどない。紹介で来た人が社名検索で迷う | 想起 | 一言の説明を決め、全接点で統一。社名検索の結果を整える |
| 表示回数はあるがクリック率が低い | 検索 | タイトル・説明文を相手の言葉に書き換える(SEOの追加ではなく) |
| 流入はあるが、料金・実績まで読まれず離脱する | 比較 | 比較に必要な情報を揃え、形容詞を手順・証拠に置き換える |
| 料金・実績まで読まれているのに問い合わせがない | 信頼 | 料金・進め方の公開、担当者の顔、フォームの簡素化、言葉と見た目の一貫性 |
| 問い合わせはあるが価格確認ばかり | 比較・信頼 | 選ぶ理由が価格以外に伝わっていない。差別化の言語化をやり直す |
多くの会社は、成果が出ないと「アクセスを増やそう」と検索段階の施策に戻ります。しかし落ちているのが比較や信頼の段階なら、アクセスを増やしても同じ割合で落ちるだけです。段階を特定してから手を打つことで、同じ予算の効率が変わります。
まとめ:ブランディングは漏斗の入口ではなく、出口で効いている
ブランディングを「認知を広げる活動」だと考えると、中小企業には縁遠いものに見えます。しかし4段階で見ると、ブランディングが実際に効いているのは、検索結果でクリックされるか、比較で候補に残るか、最後に連絡されるかという、出口に近い段階です。ここで効くブランディングは、広告費ではなく、言葉と一貫性の設計で作れます。
次回は、その設計を妨げている「中小企業ブランディングの5つの誤解」を取り上げます。